6.1 仕組み
DAC(Direct Air Capture)は、大気中に約0.04%の濃度で存在するCO₂を直接捕集する技術である。
発電所や工場など「点源」から排出されるCO₂を捕集するCCUSと異なり、DACは「分散排出」を対象とするため、炭素循環の最終的な収束技術と位置づけられる。
主な方式は以下の2つに大別される:
- 液体吸収法:水酸化カリウムやアミン水溶液を用い、大気中CO₂を化学反応で吸収 → 熱分解によりCO₂を回収。
- 固体吸着法:多孔質材料(ゼオライト・MOF・アミン官能化吸着材)にCO₂を吸着 → 加熱や真空で脱着し回収。
6.2 最新事例
海外事例
- Climeworks(スイス):アイスランドに「Orca」プラントを建設。固体吸着法で年間約4,000トンのCO₂を回収し、地下の玄武岩層に鉱物固定化。2022年にはさらに大規模な「Mammoth」計画を発表。
- Carbon Engineering(カナダ):液体吸収法を採用し、1施設あたり年間100万トン規模を想定。米国テキサスでOccidentalと共同で商用プラント建設を進行中。
日本事例
- NEDO支援のもと、固体吸着材を用いた小規模DAC実証が進行。化学メーカー各社が新規吸着材(MOF材料)の開発を加速中。
- 三菱重工は、既存のCO₂回収技術(KM CDR Process®)をDACへ応用する研究を実施中。
6.3 課題
- 高コスト:現行のDACコストは1トンあたり600~1,000ドル。商用化には100ドル以下が目標とされる。
- エネルギー集約度:大気中CO₂濃度が低いため、大量の空気を処理する必要があり、電力・熱エネルギー需要が膨大。
- 土地・資源利用:大規模DAC施設には膨大な送風設備が必要で、立地や環境影響が問題となる。
- 社会受容性:高額な技術導入に対し「排出削減の先延ばし」との批判も存在。
6.4 将来展望
- コスト低減の可能性:新規吸着材(MOF・有機多孔体)や低温再生プロセスの導入により、2035年までに100~200ドル/トンまで低下が期待される。
- 再生可能エネルギーとの統合:余剰電力を活用したDAC運転、再エネ由来水素と組み合わせたe-fuel製造が進展。
- ハイブリッド化:DACとバイオマス発電(BECCS)の統合により「負の排出(Negative Emission)」を実現。
- 国際的展開:米国は「Inflation Reduction Act」でDAC導入に最大180ドル/トンの税控除を設定、世界的な市場形成が加速中。
DACは、現状では「高コストのニッチ技術」だが、長期的には 排出困難な分野を補完し、カーボンニュートラル後に残るCO₂を回収する基幹技術 になる可能性が高い。

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