7.1 仕組み
地球工学(Geoengineering)とは、気候変動の進行を抑制するために、人為的に地球規模の気候システムへ介入する技術群を指す。
大きく以下の2つに分類される。
- ソーラー・ジオエンジニアリング(SRM: Solar Radiation Management)
- 太陽光の一部を反射・散乱して地球への入射エネルギーを減少させる技術。
- 例:成層圏エアロゾル散布、海洋の雲を明るくするクラウドブライトニング。 - 二酸化炭素除去(CDR: Carbon Dioxide Removal)
- 大気中のCO₂を除去し、地中や海洋に固定する技術。
- BECCS(バイオマス+CCS)、DAC(Direct Air Capture)、海洋施肥などが含まれる。
7.2 最新事例
ソーラー・ジオエンジニアリング(SRM)
- 成層圏エアロゾル散布:火山噴火による冷却効果をモデルにした技術。ハーバード大学の「SCoPEx」計画では小規模な実験準備が進められている。
- クラウドブライトニング:海水を噴霧し、雲粒径を調整して反射率を高める試み。オーストラリアでサンゴ礁保護を目的とした実証が行われている。
二酸化炭素除去(CDR)
- BECCS:バイオマス発電にCCSを組み合わせ、電力を生みながらCO₂を負排出。英国Drax社が実証プロジェクトを進行。
- 海洋施肥:鉄を海洋に散布し、植物プランクトンの増殖によるCO₂吸収を促進。ただし生態系影響への懸念が強い。
7.3 課題
- 環境リスク:成層圏エアロゾルがオゾン層破壊や降水パターンの変化を引き起こす可能性。
- ガバナンス:一国や一機関の単独実施が国際的摩擦を招くリスク。気候変動を「人為的に操作」することへの倫理的問題。
- 技術成熟度:SRMはほぼ未実証段階、長期的影響はモデル予測に依存。
- モラルハザード:「技術で気候を操作できる」という期待が排出削減努力を弱める可能性。
7.4 将来展望
- 国際的枠組みの必要性:国連やIPCCの下で、研究・実証・規制を統合するガバナンスが不可欠。
- 限定的応用の可能性:サンゴ礁保護や極端気象緩和など、地域限定でのSRM適用が検討される。
- CDRとの統合戦略:SRMは「一時的な温度上昇抑制」、CDRは「根本的なCO₂削減」として役割分担。
- 社会受容性:透明性の高い公開実験とリスク評価が、社会的信頼を得る鍵となる。
地球工学は「最後の手段」と位置づけられ、現時点では 研究的段階 にある。しかし、温暖化が1.5℃・2℃目標を超える場合の「緊急冷却策」として国際的に議論が加速している。

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